松井彰彦『高校生からのゲーム理論』ちくまプリマー新書
- 作者: 松井彰彦
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2010/04/07
- メディア: 新書
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半日あれば読める手軽な本.面白かった.ゲーム理論はあんまり出てきていない気もする.
例えば,5章の未来編では次のようなことが書かれている.A,B,C,Dの4人の子供がいて,Dだけが仲間はずれになっている状況を考える.このとき,Dと「遊ぶ」と自分が仲間はずれになるとA,B,Cが思っていると(実際にDと遊んだ子供が仲間外れになる必要はない),仲間はずれの状況は安定し持続する.このとき,「仲間はずれ」という状況を説明するために, 理由(「無口だから」「ださいから」など,D個人に帰着させるもの)が探し出される.しかし,このような理由は本当の原因ではない.本では,ヒュームの経験論にも触れられている.
この部分を読んで,ダンカン・ワッツ『偶然の科学』(早川書房) を思い出した.2000年3月にシスコ・システムズが時価総額5000億を超えたときは,ビズネス誌はCEOを大絶賛した.ところが2001年にシスコの株価が80ドルから14ドルの底値をつけると,先を争うようにシスコを褒めちぎっていたビジネス誌が,今度はその戦略や業務やリーダーシップをこきおろした.なお,シスコは同じCEOのもとで2007年末に株価は33ドル強をつけている.あとから見れば,その株価のすべての上昇と下落をうまくつながるような形で「説明」する記事は書ける.『偶然の科学』では,結果を知っていれば,後付けでもっともらしい理由らしきものはいくつでも見つけられるだろうが,それは本当の原因でなないということを,多くの例とともに強調していた.
『高校生からのゲーム理論』では,日本国債についても触れられていた.この場合(協調ゲーム)では,2つの安定状態があるという.一つは自分も他人も日本国債を買う(のが安心だと思っている)状態.この状態では国債を(長期利回りを低いまま)大量に発行することができる.もう一つは,自分も他人も日本国債を買わない状態.この状態では債務不履行に陥ってしまう.政府の場合,借金の限度額は物理的な問題より心理的な問題であるとも書かれている.
- 作者: ダンカン・ワッツ,Duncan J. Watts,青木創
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/01/25
- メディア: 単行本
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