Lawler and Coyle『Lectures on Contemporary Probablity』Student mathematical library, AMS, 1999.
Lectures on Contemporary Probability (Student Mathematical Library, V. 2)
- 作者: Gregory F. Lawler,Lester N. Coyle
- 出版社/メーカー: Amer Mathematical Society
- 発売日: 1999/09
- メディア: ペーパーバック
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学部生に対して行われた,IAS/Park City 数学研究所の確率論のサマースクール(?)の講義をまとめた本.全部で,99ページと非常に薄い.[舟木]の前に,この本を読んでもよかったと思う.内容はとても面白い.後半の約1/4は,シミュレーションに充てられている.当然ながら,難しいところは,ヒューリスティックな説明やおはなしになっていて,証明まではのっていない.最近の確率論の雰囲気をつかむのに適した本なのかも.
第1章:1次元の単純ランダムウォークとスターリングの公式
上の単純ランダムウォークについて,nステップ後の距離の二乗の期待値はnであることや,再帰的であることなどが書かれている.また,スターリングの公式も(ほぼ)証明されている.
第2章:多次元の単純ランダムウォーク
上の単純ランダムウォークについて,2次元のときは再帰的だが,3次元以上では再帰的でないことが書かれている.さらに,二つのランダムウォークが交差するかどうかを考え,4次元以下では確率1で交差し,5次元以上では交差する確率は1未満であることが説明されている.また,nステップまでに交差する確率の漸近的な大きさについて,どんな予想があるかが書かれている.
第3章:自己回避ウォーク
上の自己回避ウォーク(SAW)について,長さnのSAWの個数の漸近的な大きさなどが議論されている.分かっていないことが多いと書かれている.(全然理解していないのだが,2000年代に入って,シュラム,ヴェルナーをはじめとする人々によって,SAWなどについて非常に大きな進展があったらしい.)
第4章:ブラウン運動
1次元の単純ランダムウォークの極限として(時間を1/N, 距離を),ブラウン運動が得られることが説明されている.また,ブラウン運動の零点のbox次元が1/2であることが,ヒューリスティックに説明されている.
第5章:カードシャッフルとランダムな置換
N枚のカードに対して,カードを切るという操作はN枚のカードの置換群 の元を与えることと思える. iid の-値確率変数を与え,N枚のカードに作用させることで,N枚のカード上のマルコフ連鎖ができる.この章では,いくつかのカードシャッフルの仕方が書かれている.
第6章:7回シャッフルすれば十分(だいたい)
リッフル・シャッフルというカードの切り方を考えて,リッフル・シャッフルからN枚のカード上のマルコフ連鎖を作る.全変動ノルムで測って,N=52のときは,7回シャッフルするとかなり混ざることが説明されている.詳細については,Mann, How many times should you shuffle a deck of cards, in Snell (1995), 261--289 に委ねている.
第7章:有限集合上のマルコフ連鎖
有限集合上のマルコフ連鎖が定義され,既約で非周期的ならば,定常分布が存在することが証明されている.だいたい[舟木]の7.4節の内容にあたる.
第8章:マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)
マルコフ連鎖の定常分布を知るアルゴリズムとして,二つの例が挙げられている.一つの例は,0, 1からなるランダム行列(ただし, 1の隣りあう成分は0のみである行列)とイジングモデルとの関係がお話として説明されている.もう一つの例は自己回避ウォークに対する pivot algorithm が説明されている.(あまりよく分からなかった.)
第9章:ランダムウォークと電気回路
重み付き有限グラフ上のランダムウォークについて,電気回路と合わせて説明されている.調和関数やエネルギー,ディリクレ問題について簡単に書かれている.
第10章:一様全域木(uniform spanning trees)
連結単純グラフGに対して,Gの全域木を作るgroundskeepwer's algorithmとよばれる確率的なアルゴリズムが説明されている.さらに,このアルゴリズムによるマルコフ連鎖の定常分布が,Gの全域木の集合上の一様分布であることが説明されている.詳細については,Pemantle, Uniform spanning trees, in Snell (1995), 1--54 に委ねている.(あまりよく分からなかった.)
第11章:ランダムウォークのシミュレーション
主に,第1章と第2章の計算についてのシミュレーションが書かれている.
第12章:その他のシミュレーション
乱数生成器を用いて,正規分布の乱数を出すにはどうすればよいかが書かれている.また,第6章や第8章の計算についてのシミュレーションが書かれている.
第13章:数理ファイナンスにおけるシミュレーション
(読まなかった.)